チャプレンメッセージMessage from the Chaplain

2020年02月05日掲載

心の空に北極星を   

   

“イエスは言われた。わたしは道であり、真理であり、命である”
(ヨハネによる福音書14:6)

英国聖公会の聖職者でもあったルイス・キャロル(Lewis Carroll、1832-1898)が書いた『不思議の国のアリス』という児童小説があります。幼い少女アリスが白ウサギを追いかけて不思議の国に迷い込み、人間の言葉をしゃべる動物や動くトランプなど、さまざまなキャラクターたちと出会う冒険物語です。キャラクターの中には、チェシャ猫(Cheshire Cat)という、いつもニヤニヤ笑う賢い猫が登場します。分かれ道に立って迷っていたアリスは、木の上にいるチェシャ猫に気づき、声を掛けます。“どの道を行けばいいか、教えて欲しい。”チェシャ猫は“そりゃ、君がどこへ行きたいかによるね。”アリスが“どこに行きたいか分からないの。どこだっていいんだけど…”と言うと、チェシャ猫はニヤッと笑いながら“だったら右行ったって左行ったって一緒さ”と答えます。さらにアリスが“どこかへ辿り着きたいのよ”と言うと、チェシャ猫は“だったらどこかへ辿り着くまで歩き続けばいいのさ”と答えます。
単純すぎる二人の対話は、私たちが歩む道についての幾つかの気づきを与えてくれます。一つは、道を歩むときに目的がちゃんと定まらないと、自分が行きたいと思うところに辿り着くのが難しい、ということです。この場合、辿り着くことがあるとしても、遠回りをするため時間が掛かってしまう可能性があります。だとしてもそれを決して無駄とは言えません。そしてもう一つは、たとえ今は分からなくても、先ず歩き始めて諦めずに続けば、どこかへは辿り着くようになる、ということです。この場合、歩いているうちに今の道のことが段々と分かってくるし、目的地も見えてくるようになります。また、辿り着いた目的地が、自分が行きたかったところだった、ということに気づくようになることもあります。
全ての人間には、来た道があるように、これから行く道もあります。私たちは、どこから来てどこへ行くのか(ヨハネ福音書8:14)、という自分の道のことを知る必要があります。ところが、自分が歩む自分の道なのに、それを知ることはそう簡単ではありません。人生という道は、まるで不思議の国に迷い込んだかのように、行く道がなかなか定まらない、迷い、躓き、後戻り、やり直しなどなど、葛藤とチャレンジの連続だと言っても過言ではありません。だからこそ、現実世界のアリスだとも言える私たちには、自分の心の空に北極星を掲げておくことが求められます。ご存じのように、北極星は旅人が方向性を定めるときに基準となる星として、空の道しるべの役割を担います。道は地面にありますが、その道を案内する星は空にあるわけです。それゆえ、道に迷うようになったとき、心の空に北極星という道しるべのあるなしの違いは大きいです。
クリスマス物語を見ますと、東方からの博士たちは星に導かれてお生まれになったイエス様のところへと辿り着くようになりますが、今日の私たちにとってはイエス様自らがその星の役割を担ってくださる、というのがキリスト教の教えでもあります。ことに冒頭に書きましたヨハネ福音書では、イエス様こそが真理と命の道であるがゆえに、人々が心の空に掲げられる北極星のような存在だ、と表現されているのです。それでは、いかがでしょうか。皆さんも自分の心の空に、イエス様という北極星を掲げてみたらどうでしょうか。

香蘭女学校チャプレン  成 成鍾