チャプレンメッセージMessage from the Chaplain
2021年01月01日掲載
「マッチ売りの少女」
1月になってクリスマスの話は少し季節外れと思われるかもしれません。実はキリスト教では1月6日の顕現日までクリスマスの期間なのです。クリスマスの飾りつけなどもこの日までは片づけません。そこで1月のチャプレンメッセージもクリスマスの話です。
クリスマスは悲惨な歴史、苦難の現実の中で救い主を待ち焦がれた人々に救い主が赤ん坊の姿でこの地上にお生まれになったことが告げ知らされた日です。この喜びの知らせはまず初めに羊飼いたちに告げられました。羊飼いは社会の底辺にいる貧しい人々でした。聖書には羊飼いの話が多いのでユダヤの社会では尊敬されているように思われがちですが、実際には裁判の証人にもなれない人間としての価値も認めてもらえないような人々でした。世話をしている羊も自分のものではなく、雇われている人が大部分で、もし一匹でも失ったらそれこそ給料はおろか職も失いかねない厳しい情況の中で生きていたのです。精神的にも肉体的にも過酷な生活を余儀なくされている人々であったと考えられます。この羊飼いたちに天使は「あなたがたは、布にくるまって飼い葉桶の中に寝ている乳飲み子を見つけるであろう。これがあなたがたへのしるしである。」と語っています。なんと薄汚れた家畜小屋の餌箱の中の赤ん坊が救い主だというのです。この聖書の表現はこの世界の中に生きる、最も貧しい、悲惨な状況の中にいる人々にこそ救い主はやって来るのだというメッセージと言うことができます。
「マッチ売りの少女」という誰もが知っているアンデルセンの童話があります。アンデルセンは貧しい家に生まれ、極貧の中で信仰を強く持っていた母を思い出してこの作品を書いたと言われています。こんな書き出しで物語りは始まります。「ひどく寒い日でした。雪も降っており、すっかり暗くなり、もう夜、この寒さと暗闇の中、一人の哀れな少女が道を歩いておりました。頭に何もかぶらず、足に何もはいていません。」この少女は寒さと空腹でふるえながら歩き回ります。少女の小さな手は冷たさのためにかじかんでいます。少女はマッチの束の中からマッチを1本取り出して壁にこすり付けて指を温めホッとします。少女が1本また1本とマッチを擦るたびに温かい食べ物や美しいクリスマスツリーが現れては消えていくのです。そして少女は自分を愛してくれたばあさんのことを思い出します。マッチを擦るとその光の中におばあさんが立っています。「おばあちゃん」と少女は大きな声を上げます。「お願い私を連れてって」マッチが燃えつきたら、おばあちゃんも行ってしまう。こうして少女はおばあちゃんと一緒にいたくてマッチをすり続け光の中でおばあさんの腕の中に抱かれます。やがてマッチは全部燃えつきてしまい、少女は神様のみもとに行きます。翌朝、人々はマッチの燃えつきた束を抱えて凍え死んでいる少女を見て「あったかくしようと思ったんだなあ」と言います。そして物語はこのように終わっています。「少女がどんなに美しいものを見たのかを考える人はだれ一人いませんでした。少女が新しい年の喜びに満ち、おばあさんと一緒に素晴らしいところへ入っていたと想像する人は、だれ一人いなかったのです。」
いま世界は新型コロナウィルスによって困難の中にいます。いつ終息するかもわからない不安の中で、さらに貧しく厳しい生活を強いられている人が多くいます。不安と絶望の中で自ら命を絶つ人も増えているようです。イエスさまのお誕生を祝うクリスマスは実はこういう誰からもわかってもらえず、貧しく、悲惨で、日々困難な生活を強いられている人々に、「あなたのために、あなたと共に生きるためにイエスさまは家畜小屋の飼い葉桶という最も貧しく悲惨な状況の中でお生まれになったのです。だから希望を持って生きてください」ということを告げる喜びのメッセージなのです。
香蘭女学校チャプレン 杉山 修一