チャプレンメッセージMessage from the Chaplain

2022年11月01日掲載

勇敢賞


 子どもの時代、家庭の経済状況が悪くて学校でも気おされて過ごしていた時期がある。小学校4年の時に出会った担任先生はそのような私に目を注ぎ、他の子どもたちの前でいじけないように注意深く配慮してくださった。役割演技を用いて授業を進めたことが多く、いつも私には良い役割が与えられた。そのような先生に弱い姿を見せたくなかった。それで、体育時間に転んで膝にケガをし、出血しても、何でもないように走り続けたこともある。学年の終わりに、先生はクラスの全員に賞状を授与して励ました。賞状には子どもそれぞれの特性が書かれていた。私の賞状には「勇敢賞」という賞名が書かれていた。人の中に隠されていた特性が、誰かの呼びかけを通して現れることもある。あの賞を受賞した日から、私は「勇敢」という言葉にふさわしい者になるために頑張っていった。あの賞は、私の人生における最高の賞と言える。

 人生は選択の連続とも言える。自分で道を選ぶだけでなく、道に選ばれることもある。自分の意志と関係なく、与えられた役を演じることもあるのだ。偶然与えられたことを、自分で選んだように立派にやりこなすのが人生の知恵かもしれない。でも、ずっと変わらずに強い確信の中で生きる人はいない。揺れることも、滑ることも、倒れることも、道に迷うこともある。急に感情が爆発して自分をコントロールすることが難しい時、鬱になって空虚感に襲われる時、生きることに疲れてすべてをあきらめたくなる時には、子どもの時にもらった「勇敢賞」を思い浮かべる。半世紀近く経ったが、まだあの賞をもらった人らしく生きていきたいという思いは消えていない。

 不肖の弟子の胸の中に丈夫な柱一つを立ててくださった先生、ありがとうございます。


「あなたはヨハネの子シモンであるが、ケファー『岩』という意味―と呼ぶことにする」(ヨハネ1:42)


香蘭女学校チャプレン  金 大原