チャプレンメッセージMessage from the Chaplain
2023年09月01日掲載
うるわしき朝も
かつて関西の女子校で働いていた頃、修学旅行で北海道の旭山動物園に行ったことがありました。そこでペンギンを見ていた2歳にならないくらいの幼子を連れたお母さんが幼子に「ペンギンさん」と指さしをしながら語りかけていました。するとその幼子は「ペンギンさん」と繰り返していました。お母さんが「かわいいね」と言うと「かわいいね」と答えていました。「歩いてる、歩いてる」というと「歩いてる、歩いてる」と同じように言っていたのです。幼い子どもは母親の語る言葉の意味を理解して応答しているというより、母親の語る言葉をそのまま真似るように、繰り返すように応答していたのでした。幼子の特徴の一つはなんでも受け入れることができる柔軟な心と言われます。何も分からなくてもお母さんが語る言葉をそのまま覚えていくのです。自分には理解できない言葉でも信頼して受け入れ、繰り返しながら身につけていくというわけです。
人間の生活の多くは意識しながら営まれるわけではなく、多くの場合繰り返し記憶してきたこと、真似てきたこと、学んだことを自然に表現していくことが多いようです。ある卒業生のお母さんが「先生、うちの子お風呂に入ると必ず聖歌を歌うんですよ」と言っていました。毎日毎日朝の礼拝で聖歌を歌っているのが身に着いて、お風呂に入って心地よい気持ちになると自然と大好きな聖歌が口をついてでてくるのでしょう。その話を聞いてちょっと嬉しい気持がしました。
わたしにもふと口をついて、でてくる大好きな聖歌があります。残念ながら現在の聖歌集には収録されていないのですが、「うるわしき朝も」という聖歌です。神学生だった頃京都のある退職された老司祭が慰労の集まりのときに、わたしの愛唱聖歌ですと言って歌っておられるの聞いて、わたしはその聖歌の歌詞に心を奪われたのです。 1,うるわしき朝も、しずかなる夜も、たべもの着物も、くださる神さま。 2,わがままをすてて、ひとびとを愛し、この日のつとめを、なさしめたまえや。 わずか2節の短い聖歌です。かつて香蘭女学校の校長をされていた佐藤裕先生は聖歌の研究者で何冊も聖歌についての著書があるのですが、先生の本によるとこの聖歌は1880年頃、米国ボストンの幼稚園の先生レベッカ・J・ウェストンという人がこどもたちのために作詞した聖歌(賛美歌)だということです。愛するこどもたちに人間に必要なもの、必要なことをこどもたちにわかるやさしい言葉で伝えたのです。
美しい朝、静かな夜、食べるもの、着るもの、わたしたちの大切ないのちは神さまからすべて与えられるのです。だから、わがままをすてて、ひとびとを愛して、その日にしなければならないことをできるようにしてください。わたしはこの短い歌詞の中に人間にとって最も大切なことがすべて込められていると思っています。この聖歌(賛美歌)はキリスト教の幼稚園や日曜学校でよく歌われてきたので、記憶している人も多いのではないでしょうか。母親が幼い子に語りかけたことばをこどもが知らずのうちに身につけるように、繰り返し繰り返し礼拝を捧げ、神さまを賛美する聖歌を歌う。大切にしたい香蘭女学校の務めです。
香蘭女学校チャプレン 杉山 修一