チャプレンメッセージMessage from the Chaplain

2023年10月01日掲載

難しいことにチャレンジ


 いつでしたか中等科1年生の生徒さんたちが嬉しそうに話しながら歩いていたので、「学校は楽しい」とたずねるとみんなが「うん、楽しい」とうなずいていました。「何がいちばん楽しいの」と聞くと「休み時間」、「友だちとのおしゃべり」などの答えが返ってきました。学校が楽しいと言うのは本当に素敵なことだと思います。

 だいぶ古い本ですが、数学者の岡潔と評論家の小林秀雄という人の「人間の建設」という対談集があります。学問、芸術を始めさまざまな話題について天才と言われた二人が自由に対談している内容です。その中にこんな内容のやり取りがありました。

小林―「今は学問が好きになるような教育をしていませんね。だから、学問が好きという意味がぜんぜんわかっていない」

岡 ―「人は極端に何かをやれば、必ず好きになるという性質を持っている。好きにならぬのが不思議だ。」

小林―「野球の選手は、だんだん難しい球を打てる。やさしい球を打ったってつまらない。つまり、やさしいことはつまらぬ。難しいことが面白いと言うことがだれにもある。」

このようなことを二人は語り合っているのです。もともと一級の知識人である二人ですから、私たちとは比較になりませんが、それでも難しいことが面白いと言うのはスマホのゲームなどしていてもなんとなくわかることです。

 先日、礼拝の前にオーケストラの生徒さんがヒルダ祭に向けて一生懸命練習していました。ある生徒さんにとっては難しくて大変なようでしたが、ひたすら努力している姿がとても素敵でした。どのような部活でも同じだと思いますが、難しいことにチャレンジしている生徒さんの姿ほど感動的なものはありません。いくら努力しても思ったように上達できずに悩むこともあるのでしょうが、難しいから面白い、そういうことを体験しながら人間は成長していくのだと感じます。

 私はもう老人で、最近のITを中心とした世界の動きにはなかなかついていくことができません。それでも難しいことにチャレンジしようと最近コンピューター教室に通い始めました。簡単なワードやメールのやり取りくらいはできるのですが、デジタルネイティブと言われる若い先生や生徒さんが見事にできる操作などもなかなかできないのです。正直言って、難しい本を読むことなどは好きなのですが、コンピューターやタブレット、スマホなどを操作することはとても苦手で、難しいと感じて負担なのです。でも、難しいから面白いという岡潔と小林秀雄の言葉を思い起こして、生徒のみなさんが勉強や部活で努力しているように、私もちょっとだけですが、難しいことにチャレンジすることにしたのです。今はできないけれど、そのうち操作できるようになることを目指してみようと思っているのです。

 パウロという人の書いたローマの信徒への手紙5章に「そればかりでなく、苦難をも誇りとします。私たちは知っているのです。苦難は忍耐を、忍耐は練達を、練達は希望を生むということを」という私の好きな言葉があります。キリストを伝えていくことの苦難の中で忍耐が確信をもたらし、それが希望になるということですが、私たちの日々の生活の中でも難しいことを忍耐して努力を続けると、やがてそれが希望になっていくのでしょう。私たちは自分の前にある難しいこと困難な課題に挑戦して、希望を持って自分の人生を豊かにしてください。


香蘭女学校チャプレン  杉山 修一